理学療法を再考するブログ

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患者が良くならないのは自分の徒手技術がないから、は本当なのか?

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おはようございます。

 

今回は患者の痛みや身体機能を良くする上で高い徒手技術が必要かというテーマで考えていきます。

患者が良くならず、その原因を「自分の徒手技術がないせいだ」と悩んでいるセラピストは多いのではないでしょうか。

そのような悩みに対して、今回の記事では徒手療法を批判的に吟味していき、患者を良くするために徒手療法を臨床でどのように活用すべきかを書いていこうと思います。

 

この記事は以下のような人に向けて書いていきます。

 

◎患者が良くならないのは自分の徒手技術が低いからだと考えている人
◎とにかく自分の徒手技術を高める事で患者さんに貢献しようと考えている人
◎治療選択について意識したことがない人
◎Shared Decision Makingって初めて聞きましたという人

 

目次

[1.触っているつもり?な触診] 

[2.科学的にみた徒手療法の効果とは]

[3.徒手療法のエビデンス]

[4.治療選択のススメ]

[5.今後求められるShared Decision Making] 

[6.プロフェッショナルとは]

 

 1.触っているつもり?な触診

  臨床を語るうえで触診の重要性はみなさんもご存じかと思います。徒手療法を行う上でも高い触診技術の必要性は多く聞きます。しかし、触診の精度に関して考えたことはあるでしょうか。

触診技術を向上させるには解剖学の知識を高め、何度も何度も触れる練習を重ねることで精度は上がっていきます。初めは脊柱の棘突起の触り分けが難しく感じても経験や練習を重ねることで以前よりもスムーズに的確に触れるようになった人も多いと思います。しかし、これにはある条件がつくと考えています。

それは「確実に触れる組織である」という前提条件です。

しかし、臨床や徒手療法の勉強会ではこの前提条件が無視され本当に触診できているのかが疑わしい事を患者や受講生に伝えるセラピストや講師もいます。

例えば、「大腰筋」を例に考えてみましょう。臨床でもよく話題に挙がり、大腰筋の触診は難しく、触診の練習をしたセラピストも多いのではないでしょうか。

大腰筋を触知する際には仰臥位となり、腹部の上から大腿骨小結節からお臍と剣状突起を結んだ仮想線内に大腰筋がある事をイメージして触診を行います。よく分からない際は股関節を屈曲させて筋収縮を感じながら確認するとより強く大腰筋の硬さの触知が可能になると言われています。

しかし、大腰筋よりも表層には様々な組織が存在していますが、それらはあまり考慮されていないように感じます。例えば、上から皮膚(表皮/真皮)、脂肪組織、浅筋膜、脂肪組織、内臓(大腸/小腸)などがあります。もちろん、これらも独自に硬度を持っており、特に結合組織である脂肪組織や筋膜などは水分含有量によって硬度が変化します。これらを考慮した際に私たちが皮膚の上から触っている硬さは本当に大腰筋の硬さなのかと疑問が出てきます。

「いや、でも筋収縮すれば筋肉の動きが感じられるし、ちゃんと他の組織の上から触知は可能だよね?」と思うかもしれませんが、そもそも筋収縮を起こす事によって動くのは筋肉だけではありません。人は全身を筋膜という膜で覆われている事を考えると、同時に内臓である大腸や小腸、結合組織も動いている事になります。あなたの手で感じられているのは内臓の動きや硬さかもしれないですし、もっと表層の結合組織の動きや硬さである可能性があります。また、大腰筋にたどり着く前に腸間膜根という強固な組織も存在します。しかし、我々セラピストはこれらの事をあまり考慮せず、触診している部位を硬く感じると「大腰筋が硬い」という判断をします。

そもそも、触診で患者の症状をどこまで把握できるんでしょうか。

2012年に触診の訓練を行った2人の医師が片側性腰痛・頚部痛をもつ91人の被験者の頚部と腰部を触診し、左右のどちらに症状があるかを当てられるかを調べた研究があります。触診以外の検査は実施しません。

この研究結果では正答率は腰痛症例は64.8%(p=0.02)、頸部痛症例は58.5%(P=0.10)でした。腰痛症例は有意差があるものの、左右どちらかの1/2の確率であるにも関わらず60%前後の触診の精度では情報としての信頼性はあまり高くないように感じます。

 

参考文献:Maigne JY, Cornelis P, Chatellier G. Lower back pain and neck pain: is it possible to identify the painful side by palpation only?. Ann Phys Rehabil Med. 2012; 55(2): 103-111. 

 

更に2017年に報告されたこちらの研究では、慢性腰痛患者が感じるこわばり感(feeling Stiffness)と検者が組織を皮膚上から徒手で押したときに感じる筋の硬さ(Stiffness)に相関は見られなかったとしています。

 

参考文献:Stanton, Tasha & Molsely, Lorimer & Wong, Arnold & Kawchuk, Greg. (2017). Feeling stiffness in the back: A protective perceptual inference in chronic back pain. Scientific Reports. 7. 10. 1038/s41598-017-09429-1.

 

 以上の研究結果や身体解剖学観点から考察するに触診は我々セラピストが見たいものを見たいようにしか捉えていないバイアスが強くかかっている可能性が高いと感じます。

知識や経験を積む事で確かに触診の精度は上がりますが、反対に触れているかも分からない組織を触っている錯覚に陥り、バイアスだらけの情報から治療方針を決める危険性をはらんでいます。硬い部位を触知した時にその原因に介入するとしても、そもそもの評価が合ってなければ効果は得られにくいと感じます。これも一つ徒手療法の弱点と言えるのではないでしょうか。

 

2.科学的にみた徒手療法の効果とは

 さて、徒手療法を行う上でどれほどの効果を持ってるのかを知っておくことは重要です。 以前の記事で痛みについて書いた際にも、[1.痛みを治すのに必要なのはゴットハンドなのか?]で徒手療法の限定的効果に言及しました。

簡潔に言えば、即時的効果や極短期的な効果を示す研究はあるものの、徒手療法において長期効果を示した質の高い研究はない。というものでした。(※下記リンク参照)

痛みについて再考する。 - 理学療法を再考するブログ

 

ただ、こう思いませんか?いやいや、この研究対象となったセラピストの技術不足なんじゃないの?そもそも私の徒手療法は筋膜や神経系へのアプローチもしているから!と。

確かに徒手療法において顕在化されていない部分はあると思われます。例えば、各個人の知識経験や技術により徒手療法の効果に差が出てくることは大いに考えられます。しかし、その顕在化されていないことを理由に自身の徒手療法がエビデンスが確立された他の治療より優れていると判断するのは問題があります。

2011年には徒手技術の内容によって治療結果が異なるかを調べた研究があります。この研究では2種類のマッサージと通常ケアが慢性腰痛に及ぼす影響を比較しています。この2種類のマッサージと通常ケアの内訳は

1.リラクゼーションマッサージ(リラックスを目的とする)

2.構造マッサージ(筋筋膜アプローチ、神経筋アプローチ、軟部組織アプローチによる筋骨格系の要因を特定して症状の緩和を目的とする)

3.通常ケア(特別なケアを受けず、50ドルが支払われ、実際のケアは医療記録と面接から決定)

結果として、マッサージの種類による効果に有意な差はほとんど見られず。2種のマッサージによる症状への効果に関しては10週が臨床的に意義のある改善のピークでした。長期的(26週以降)にはマッサージの効果は通常ケアと比べ差は認められなかったとしています。

 

参考文献:Daniel C. Chekin, PhD et al. A comparison of the effects of 2 type of massage and usual care on chronic low back pain: A Randomized, Controlled trial. Ann Intern Med. 2011 Jury 5; 155(1): 1-9.

 

みなさんはこの研究結果から何を考えますか?

この研究では、構造マッサージは筋筋膜アプローチや私がよくやっている筋肉のリアライメントからの筋骨格-神経系へのアプローチも包括しています。この研究結果と先ほどの触診の不確実性も合わせ、この論文を読んだ時に私は自身の徒手療法について自分が思っているほど効果を出せていないんじゃないかと疑念を抱きました。

効果判定に関しても他の介入方法と比べて意義ある改善を徒手療法で出せているとは言えないことに気づき、一度自身の徒手療法を科学的根拠を基にした診療(EBP)の観点から考える事にしました。

 

3.徒手療法のエビデンス

 ここでは徒手療法の科学的根拠を確認しましょう。2011年に発表された理学療法ガイドライン徒手理学療法を確認してみると

頚部に対する徒手療法の有効性は以下のようになっています。

  • 関節モビライゼーション 推奨グレードA エビデンスレベル2
  • マニュピレーション 推奨グレードA エビデンスレベル2

頚部痛(むち打ち含む)や眩暈に対しエビデンスで示されているのは上記2つの徒手療法です。推奨度やエビデンスレベルは高いですが、他の治療よりも効果が優れているとは言えないのが現状です。

しかしながら、12週以上続く機械的な慢性頚部痛患者に対し徒手療法単独、運動療法単独と比較し、マニュピレーション+運動療法の介入は筋力、筋持久力、可動域に対して改善を認めたとの報告があるため、複合的な治療は単独での治療よりも優れている可能性があります。

 

参考文献:Bronfort G, Evans R, Nelson B, et al: A randomized clinical trial of exercise and spinal manipulation for patients with chronic neck pain. Spine 26: 788-797, 2001.

 

胸部に対する徒手療法の有効性は以下のようになっています。

  • 関節モビライゼーション 推奨グレードA エビデンスレベル2

上記の関節モビライゼーションにはマニュピレーションも含まれて記載されています。上肢障害に対しては即時的な効果を認め、頸部障害に関しては特に胸椎にマニュピレーションを実施することで即時的~1か月を超す臨床的に優れた効果をもたらすとしています。

 

腰部に対する徒手療法の有効性は以下のようになっています。

  • 腰痛に対する徒手療法 推奨グレードA エビデンスレベル2
  • 急性・亜急性腰痛に対する徒手療法(マニュピレーション・モビライゼーションなど) 推奨グレードB エビデンスレベル2
  • 慢性腰痛に対する徒手療法(マニュピレーション・モビライゼーションなど) 推奨グレードA エビデンスレベル2
  • 腰痛に対するマッサージ効果 推奨グレードA エビデンスレベル2

腰痛に対する徒手療法はマニュピレーション・モビライゼーションを指して記載されています。急性腰痛に対する徒手療法のエビデンスは中等度であり、無治療よりも疼痛や能力低下の改善を図れますが、他の治療に比べ効果が優れているとは言えません。

また、慢性腰痛に対してモビライゼーションとマニュピレーションはプラセボ群と比較しても効果を発揮し高いエビデンスレベルとして推奨されています。一方で複合治療(マニュピレーション、運動療法、医師のアドバイス)は医師のアドバイスと同等の治療効果しか認めない事や一般的エクササイズと比較した際に徒手療法は短期的に効果を認めるも長期的には差がないとしています。

 

 以上より徒手療法でもガイドラインで推奨されるエビデンスがあるのはモビライゼーションとマニュピレーションのみになります。またそれら徒手療法の各部位への効果をまとめると何もやらないよりはやったほうがいい、単独では効果が短期的である事、他の治療と比べ優れた治療ではない事、複合的(運動療法との併用)であれば効果を示す場合もある。となるでしょうか。

更に脳卒中ガイドライン2015(追補2019)においても運動麻痺を有する脳卒中患者に対し『ボバース法やPNFなどの神経筋促通手技は行ってもよいが、伝統的なリハビリテーションより有効である科学的根拠はない』としています。むしろ訓練量を増やす事や通常のリハビリテーションに加えて機能的電気刺激やペダリング運動を行うと歩行能力の向上や筋再教育に有効であるとしています。

このことを考慮すると患者の治療選択をするにあたり徒手療法を第1選択にしてしまうのはベストではないように感じます。

理学療法作業療法を実施するにあたり、入院期間も定められていることからも比較的費用対効果の高い治療選択を行う必要があります。但しリハビリテーション分野は不確実性が高く、質の高いエビデンスも確立されていません。つまり、この疾患の人にこの治療をやれば必ず高い効果が得られる!なんて治療はありません。

では、不確実性の高いリハビリテーション分野でどのように治療選択していくべきなのでしょうか。

 

4.治療選択のススメ

 不確実性の高いリハビリテーション分野で治療選択を行う上では、患者の意思決定が重要となってきます。特に徒手療法は3.でも示したように常に最適となるような治療法ではなく、場合よっては効果が十分に得られない可能性もあります。

わかりやすい例として、同じく不確実性の高いがん治療で考えてみましょう。女性特有の疾患である乳がんは様々な治療法がありますが、どの治療法を選択するかはその人の背景や価値観によって異なってきます。

仮にAさんが乳がんだと診断を受けて医師から再発の可能性が最も低い乳房切除術を勧められました。無事に手術は終わり、Aさんは自身の身体の変化にショックはありながらも生活を送っていました。そんな中、1年後にBさんという乳がん経験者と知り合います。話の中で、Bさんは乳房切除術を受けずに乳房温存術と放射線治療を受けた事で再発なく過ごしている事を聞き、Aさんはショックで泣き崩れてしまいました。

自分もその選択肢がある事を知っていたら、乳房切除術なんて受けなかったのに…と

ここでの問題点は医療者(医師)と患者(Aさん)の間で適切に情報共有がなされず、医療者側が一方的に治療方法を提示してしまっている事にあります。不確実性の高いがん治療において、特に女性にとって身体に傷がついてしまう治療選択は大きな副作用と考える事ができます。この場合、各治療の益と害のバランスを適切に伝えるために以下のように情報を提示することが大切です。

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本来Aさんには乳がんにおける全ての選択肢(治療法)を提示し、治療法それぞれのメリット/デメリットを説明した上でAさん自身に選択させることが必要でした。医療者が良かれと思って提示した選択肢は患者本人にとって必ずしもベストではないという事がわかる例です。

リハビリテーション分野ではどうでしょうか。恐らくはほとんどのセラピストが自身が良いと思っている治療プログラムのみを患者に提示し実施しているのではないでしょうか。それこそ、どのような患者に対してもまず徒手療法を施行しているように。

よく勘違いされていますが、ガイドラインエビデンスは医療者だけが使用するものではありません。特にガイドラインにおいては定義の中で「医療者と患者の意思決定を支援する文書」と記載されています。医療という先が不確かな中で医療者は患者が後悔しないように適切に情報を提供し、患者の思いを汲み取り、ガイドラインなどのツールを使用する事で意思決定を行えるようにサポートする事が役割だと考えます。

これが中々難しいのですが、医療の中でも不確実性が高く、選択肢も多数ある中で患者と医療者がどのようにして意思決定を行えばいいかをある程度構造化したShared Decision Making(以下、SDM)という手段があります。

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SDMは治療決定においてエビデンスのみを重視するのではなく、患者を中心としたコミュニケーションを行うことで最適な患者ケアを目指す方法です。

 

5.今後求められるShared Decision Making

 徒手療法を臨床で活用するにあたり重要なことは徒手療法とその他の治療法を同等の選択肢として並べて患者に提示し、患者が徒手療法を望むかもしくは患者の目標達成に向けて徒手療法が最適かを考えることです。

SDMでは実施にあたって9つのSTEPがあります。

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このSTEPに沿って患者と治療内容や方針を話し合い、決定していきます。実際はこの9STEPの前にも「患者との目標共有」「Clinical Questionの設定」「ガイドライン/エビデンスの検索と選択」「内的/外的妥当性の検討」が必要なのですが、今回は割愛します。SDMの詳細な実施例はまた次回以降に書いていきます。

今までの話を総括して徒手療法のメリット/デメリットを考えると以下のようになります。

メリット

  • 受動的な治療法(ストレッチやマッサージ含む)であるため、運動療法などの他の治療よりも比較的実践のハードルが低い
  • 即時的/短期的効果であれば見込め、患者自身も効果を実感として得られやすい
  • マニュピレーション・モビライゼーションはガイドライン上でも実施が推奨される科学的根拠がある(しかし、他の治療と比べて優れているわけではない)

デメリット

  • 長期的な効果が期待できない
  • 施術者の経験・技術によって効果に差がある
  • 患者が依存的になってしまう可能性があるため、治療が長期に及ぶ可能性がある
  • 徒手療法の中でも明確なエビデンスが存在するのは痛み(頚部に対しては眩暈など含む)に対するモビライゼーションとマニュピレーションのみであり、これ以外の症状に対するマニュピレーション・モビライゼーションの実施やそれ以外の徒手療法を行うにあたってはエビデンスが明確になっていない

 

徒手療法においてもSDMのSTEPにある「可能なすべての選択肢を同等のもの」として述べた上で「それぞれの治療法のメリット/デメリット」を伝えましょう。その上で患者が選択すれば初めて治療プログラムに組み込むことに意味が出てきます。

 

6.プロフェッショナルとは

今回のテーマである患者の痛みや身体機能を良くする上で高い徒手技術が必要か」から最後に私の考えを述べさせて頂くと、患者を良くする事に必ずしも高い徒手技術は必要ではありません。

私自身もオステオパシーやBiNI Approachなどで徒手技術を高める事にかなり集中した数年間がありました。特にオステオパシー(JOPA)では、その組織の会長による施術を私が被検者となり実際に受ける事で身体に確かな変化が生まれたのを目の当たりにしています。その会長曰く「神経や脳にさえも自分は介入し、難病を解決できる。実際に病院などにさじを投げられた人たちが自分の所にきて、そういった人たちを助けている。」と。

本当に脳にまでアプローチできるのか?という疑問は置いておき、徒手療法のデメリットとして記載はしましたが、経験や技術によって効果が変わるという事は高い経験や技術を持つ人はもしかしたら科学的には対処のしようがない症状も改善できる可能性はあると考えます。

しかし、それはあくまで適切に手順を踏んだ後に実施するべきだと考えます。セラピスト全員が科学的根拠を無視して、それぞれが信じる治療法を提供してしまうのは患者に益を与えないどころか害さえ与える可能性があります。

例えば、徒手療法の団体では「癌さえ治せる」と謳っている人たちもいます。あなたが癌患者だったとして、担当した医師が外科手術や放射線治療抗がん剤を処方せずに「僕の施術で癌は治るから、抗がん剤なんかいらないよ。」と言われたらどうでしょう?

私なら「そんな怪しい方法じゃなくて、ちゃんと根拠のある治療をしてよ」と思います。しかし、既に末期で現在の医療では手の施しようがないと判断された場合は私の中では科学的根拠は求めるものではなくなり、多少怪しかろうが「もしかしたら治るかも…」と徒手療法でのがん治療を希望するかもしれません。

つまり、患者の思いや背景を考慮し、そして正しい情報を提供した末に患者が徒手療法を選択した時は実施するべきだと思います。そこで高い徒手技術を持っていれば、患者への利益にもなるでしょう。ただ、徒手療法の技術の高さという指標はグレーゾーンだと考えます。

徒手療法の勉強会では神経の滑走性を確認する、髄液の流れが滞っているのを感じてその場所にアプローチする事さえあります。実際に触知出来ている人もいるのでしょう。(私としてはほとんどの人が出来ていないと思っています)

しかし、講師が受講者に触診について教える際にどこからが正確に触知出来ており、どこからが不正確な触知なのかというのは個人の中の判断に委ねられていると感じています。触診についても触れましたが、実際は神経以外の硬さを感じているとしても、施術者が「これが神経の硬さだ」と認識すればそれは神経の硬さになってしまいます。それをまた次の人に伝えた際に更に変質して伝わってしまいます。

つまり、検者間の信頼性に乏しさがあり、本当に介入出来ているのかどうか怪しいものに時間やお金を多大に使ってしまう事を私は推奨しません。

高い技術はあればいいけど、その脆さから絶対的に求められるものではないと思います。なので、必ずしも高い徒手技術は必要でないと考えています。

私たちは医療者であり、プロフェッショナルでなければなりません。

セラピストは確証バイアスに陥りやすい職業です。自分が信じる事のみ心酔して論理的思考を放棄してしまうのはプロフェッショナルとして失格です。

一般的な筋の走行や骨指標を触れる技術は最低限必要ですが、実際に触れているのかも分からない、自分の中で正しく・確実に積みあがっているかも分からないことを高めようとする前に正しいエビデンスの扱い方や患者とのコミュニケーションなどの知識・技術を高める事が先決だと考えます。

患者が良くならない理由は徒手技術に固執する療法士の態度にあるのではないでしょうか。

徒手療法やガイドラインなどのツールや手段に操られるのではなく、プロフェッショナルとして適切にそれらを扱う事が患者を良くするための第一歩だと思います。

 

以上で今回のテーマを終わりにしたいと思います。

ご拝読ありがとうございました。