理学療法を再考するブログ

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脳画像の知識を臨床で生かす方法

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おはようございます!

 

今回は脳血管疾患を臨床で扱う上で必要な脳画像について考えていきます。

 

 さて、脳血管疾患患者を担当する事になり臨床場面で色々と難しい問題に直面する事が多いと思います。その中で臨床のヒントとなるのが脳画像です。しかし、脳画像を見る(見た)上で色々悩みも出てくると思います。

 

例えば…

◎入院当初、脳画像から予測していた身体・精神高次脳機能機能から予後がかけ離れている。

◎脳画像は読めるけど、臨床にどう繋げたらいいかが分からない。

◎結局、脳画像が読めればいいんでしょ?

 

 今回のこのような悩みや考え方をお持ちの方々に向けて、新たな視点・悩み解決の一助になるよう私の考えを書いていきたいと思います。

今までに職場の後輩達に脳血管に関しての勉強会を開いた所

「脳画像の見方と臨床への繋げ方がわかった気がします。」などの意見(先輩に気を遣っていたとも思いますが笑)が多くありました。

この記事を読む事で「脳画像の知識を正しく臨床で活用出来る第一歩」になれば幸いです。

 

目次

[1.途中から患者さんが良くならない]

[2.脳画像しか見ないセラピスト]

[3.勉強する程陥りやすいワナ⁈]

[4.脳画像の扱い方]

[5.脳画像を臨床に繋げる方法]

 

 

1.途中から患者さんが良くならない

 私は2年目頃から脳画像に関しての勉強会に参加したり教科書などで勉強して、脳の解剖や局所の機能、神経ネットワークについての知識を蓄えていきました。

もちろん今でも勉強はしているのですが、今と昔では脳画像についての扱い方がかなり違っています。

 

当時、知識をどんどん蓄えていった私はある程度脳画像も読めるようになり、脳画像と臨床での患者さんの症状を一致させるように読み解くようになっていました。

(右小脳半球の梗塞だから大脳小脳経路に障害が出ていて、右上下肢に失調が起こるから歩く時に右へふらついているんだな!よし、下肢協調性向上に対して、リカンベントエルゴを使おう!)

てな具合です。

 

当時担当していた小脳梗塞/出血の患者さんに対しては四つ這い位、エルゴメーターなど脳画像を基準に臨床思考を展開していたため、脳画像から理学療法プログラムを立案していました。

最初のうちはある程度患者さんも良くなっていくんですが、ある一定の時期を過ぎると変わらなくなってくるんですね。まだ、ふらつきは残っているのに…

 

2.脳画像しか見ないセラピスト

そして、ある時先輩に言われたんです。

先輩「お前って脳画像しか見てないよね」

 

言われた当初は???でした。

えっ、何で?駄目なの?

だって脳画像見ないとその人の症状が何故起こっているのかわからないですよ!?

 

その先輩は多くを語らない人だったのですが、嫌味のような意味のない事は言わない人だったので、その言葉の意味をずっと考えていました。

そしてある日、自分の臨床感が変わるキッカケがありました。

担当の患者さん(小脳梗塞)が入浴後すぐにリハビリに入る機会があったんですが、いつもふらついて歩いている人がいつもより安定している気がしたんです。

片脚立位のテストをすると今まで、障害側は1秒も保持出来なかったのに今は3秒間保持出来てる!

そして極め付けは次の日の朝には元の状態に戻ってふらふら歩いていたんですね。

 

これはおかしい!何でだ!?

そして気付きました。もしかしたら、自分が小脳梗塞のせいでふらついていたと思い込んでいただけで、原因は他にあるんじゃないかと。

なぜなら小脳神経ネットワークの問題による失調からくるふらつきならば、お風呂に入ったくらいで良くなりませんよね。

お風呂は温熱効果があるので何かしらの筋肉や血管に作用して身体機能に変化が起きた結果ふらつきが一時的に改善し、また一晩経って筋肉などが硬くなったから朝方には元に戻っていたと考える方が自然だと思ったんです。

 

3.勉強する程陥りやすいワナ⁈

この時まで私が犯していた失敗は、

「脳画像を見ることでその情報に固執し、目の前の患者さんからの情報を知らず知らずのうちに軽視または無視してしまっていた」事です。

何にでも言える事ですが、お金と時間をかけて学んだ事って使いたくなりますよね?

私の場合、脳画像の勉強をする事で脳画像の情報のみを重要視してしまっていたんです。

これは思考にバイアスが掛かっている状態となっており、論理的思考を放棄し思い込みにより物事を判断していたことになります。

※バイアスに関しては今後またブログで書いていこうと思います。

 

結局その患者さんは障害側の足関節のROMに制限があり、足関節のROMexを行う事でコンスタントに片脚立位は3秒以上保持出来るようになり、歩行時のふらつきも以前より改善されていきました。

今思えば入院当初から徐々に改善していたのは脳の自然回復が要因として大きかったのではないかと考えています。

 

4.脳画像の扱い方

 このように脳画像に固執してしまうと、本来の問題点に行き着けなくなってしまう恐れがあります。

 

そもそも脳画像で分かる事って何でしょう。

脳画像は脳の器質的問題が分かるだけであって、本当にその部分の神経ネットワークに障害があるとは断定出来ません。

ただ、解剖学的知識と画像所見から症状の把握が出来るのも事実です。1)

例えば、4野の同じ場所同じ範囲に出血や梗塞があれば、基本的には上下肢の麻痺は出現するでしょう。しかし、麻痺の程度も同じになるかと言われれば異なってくると思います。

生まれながらの個体差であったり、その人の今まで歩んできた人生においても脳のマップやネットワークが異なる可能性があると考えています。Ja ̈ncke ら (2009) によると特定の分野で活躍したスポーツ選手はそうでない人たちと比べて、特定の部分の灰白質容積が大きかったと報告しています。(プロゴルファーはそうでない人達に比べて背側運動前野と頭頂葉灰白質容積 が大きい。など)2)

ベテランタクシー運転手は人よりも頭頂葉の活動が活発であると言われています。頭頂葉脳卒中が起こっても背景によって他の人よりも地理や空間認知機能は低下しにくいかもしれません。また、大脳皮質は産まれてから死ぬまで脳細胞がどんどん減っていくと言われており、同じ箇所の脳卒中でも若年者の方が高齢者に比べて回復力が高いと考えられます。

以上の事から脳の器質的な問題は同じであっても、個々に出る症状は異なる可能性があると考えられます。そのため、脳卒中症例の問題を見つけようとする時に脳画像のみで問題点を絞ろうとすると本来の問題点を見失いやすくなってしまうわけです。

決して脳画像から読み取れる情報を軽んじているわけではありません。脳画像の情報は一つの事実として頭の中に置いておき、まずは目の前の患者さんに目を向ける事の方が大事だと私は思います。

 

5.脳画像を臨床に繋げる方法

では、最後に脳画像の情報を実際の臨床場面で扱うにはどうすれば良いか私なりの考えを書いていきます。

 

⑴脳画像を見るタイミングは患者さんの評価を一通り終えてからにする

▶︎脳画像を先に見てしまうとその情報に引っ張られてしまうかも…と不安な人には、有効だと思います。私も思い込みを防ぐために画像は敢えて後で見るようにしています。

 

⑵事実と仮説の混同に気をつける

▶︎画像所見は"事実"としての情報ですが、そこから考える神経ネットワークは"仮説"になります。神経ネットワークは目に見えないものなので、特殊な計測装置を使用していない限りはあくまで仮説に過ぎません。仮説を事実として捉えてしまうと他の要素を見落としてしまうので注意が必要です。

 

⑶仮説を可能性の高い順に並べ、鑑別診断や理学療法評価にて仮説を絞っていく

▶︎これは脳画像だけの話ではありません。臨床においてはClinical Reasoning(CR:臨床推論)が必要です。CRでは自身の仮説を鑑別診断や理学療法評価にて支持or否定する事だけでなく、自身の思考にバイアスがないかをメタ認知する事。患者さん自身の身体に対する考え方なども加味してCRを行っていく必要性があります。

 

長々と書いてきましたが何にせよ脳画像は情報の一つであり、そこから臨床展開していくのは良いですが、あまり脳画像に捉われない事が大事です。

画像所見より右頭頂葉に病変があると分かり、患者さんが左側を見ない。半側空間無視だ!

ではなく、そもそも左側を向けるその他の準備が出来ているのかどうかを評価しているかが重要になってきます。

左側を向ける身体機能はあるのにも関わらず左側を見ようとしない場合は半側空間無視による影響が大きいと言えるでしょう。

脳自体の神経ネットワークはまだ生きているのに身体機能面の問題に目を向けず、脳の病変のせいで目的を遂行出来ないと考えていたのでは本来予測していた予後よりも改善が見込めないのは当たり前です。

患者さんの現象(麻痺や高次脳機能障害など)を脳画像所見のみで判断をするのではなく、総合的に見て問題点を絞るようにしていく事が大切だと思います。

 

以上で脳画像についての考察を終了とします。

ご拝読ありがとうございました。

それでは、また次回!

 

参考文献・図書

1)監修;相澤純也,編集;中村学,藤野雄次『クリニカルリーズニングで神経系の理学療法に強くなる!』羊土社,2017年,pp.26-27

2) L. Jancke, et al.: The architecture of the golfer’s brain, PLoS One, 4–3, e4785 (2009)